6-3. クラス¶
Pythonにおけるオブジェクト指向プログラミングのうち、クラスを定義する方法について簡単に説明します。
参考
クラス定義¶
Pythonでは全てのデータはオブジェクトなのですが、 以下では特に、クラス定義によって作成されたクラスを型とするデータを扱います。 このようなデータは、オブジェクト指向プログラミングにおける典型的なオブジェクトです。 そこで以下では、オブジェクトという用語をもっぱら使います。
4-1で見たように、ファイルオブジェクトに対して readline()
というメソッドを呼び出すと、 ファイルの行が文字列として次々と返されます。 ここでは、ファイルオブジェクトのようなオブジェクトで、 readline()
というメソッドが呼び出されると、常に 'Hello.\n'
という文字列を返すようなものを作ってみましょう。
そのためには、新しいクラスを定義します。 クラスとは、オブジェクトの種類を意味します。 新しいクラスを定義すると、そのクラスに属するオブジェクトを作ることができるようになります。 それらのオブジェクトの型は、その新しいクラスになります。
ここでは、ずっと 'Hello.\n'
を返し続けるので、 HelloForEver
という名前を持つクラスを定義しましょう。 そして、HelloForEver
というクラスを型とするオブジェクトを作ります。
[1]:
class HelloForEver:
def readline(self):
return 'Hello.\n'
一般にクラス定義は、以下のような形をしています。
class クラス名:
def メソッド名(self, 引数, ...):
実行文
def メソッド名(self, 引数, ...):
実行文
...
メソッド定義は関数定義と同じ形をしていますが、 クラス定義の中に入っています。 メソッド定義において、その最初の引数には慣例として self
という名前を付けます。 この引数には、メソッドが呼び出されたオブジェクト自身が渡されます。
上の例では、readline
というメソッドが1つ定義されています。
以下のようにして、このクラスのオブジェクトを作ることができます。
[2]:
f = HelloForEver()
HelloForEver
を型とする新しいオブジェクトが作られて変数 f
の値となります。
一般に、オブジェクトの生成は、
クラス名(式, ...)
という式で行います。このようにオブジェクトを生成する式はコンストラクタと呼ばれます。 なお、上の例では、括弧の中に式は1つもありません。
このようにして作ったオブジェクトの型を確認してください。
[3]:
type(f)
[3]:
__main__.HelloForEver
__main__.HelloForEver
と表示されたでしょう。 __main__
は、ノートブックの式が評価されているモジュールを指すので、 このオブジェクトの型が、上で定義した HelloForEver
クラスであることがわかります。 クラスのコンストラクタによって生成されたオブジェクトを、そのクラスのインスタンスと言います。 上のオブジェクトは HelloForEver
クラスのインスタンスです。
オブジェクトそのものは以下のように表示されます。
[4]:
f
[4]:
<__main__.HelloForEver at 0x10f459820>
このオブジェクトに対して、readline
というメソッドを呼び出すことができます。
[5]:
f.readline()
[5]:
'Hello.\n'
この例では、f
という変数に入っているオブジェクトが self
という引数に渡されて、 readline
の本体である以下の文が実行されました。
return 'Hello.\n'
(この例では self
は参照されていません。)
何回やっても同じです。
[6]:
f.readline()
[6]:
'Hello.\n'
[7]:
f.readline()
[7]:
'Hello.\n'
初期化と属性¶
以下の例では、初期化のメソッドが定義され、オブジェクトに属性が与えられます。
初期化のメソッドは __init__
という名前を持ち、 オブジェクトが作られたときに自動的に呼び出されます。 __init__
の引数は、オブジェクト自身と、クラス名の後に与えられる式の値です。
[8]:
class HelloFile:
def __init__(self, n):
self.n = n
def readline(self):
if self.n == 0:
return ''
self.n = self.n - 1
return 'Hello.\n'
この例では、以下のようにしてオブジェクトが作られます。
[9]:
f = HelloFile(3)
すると、HelloFile
を型とする新しいオブジェクトが作られて、 そのオブジェクト自身が self
に、3
が n
に渡されて、 self.n = n
という文が実行されます。
self.n
という式は、このオブジェクトの n
という名前の属性を表します。
一般に、class
の構文によって定義されたクラスを型とするオブジェクトは、 属性を持つことができます。 属性とは、個々のオブジェクトごとに記録される値であり、 オブジェクト内の変数と考えられます。 オブジェクトの属性は、オブジェクトに対してその属性名を指定して、参照したり設定したりできます。 オブジェクトの属性は、self.属性名
という式で参照されます。 self.属性名
を代入文の左辺に書けば、属性を設定することができます。
self.n = n
のうち、self.
の次の n
は属性を表し、 右辺の n
は、__init__
メソッドの引数を表していますので、 混同しないようにしてください。
この例では、新しく作られたオブジェクトの n
という属性が、引数 n
の値である 3
に設定されます。
readline
メソッドは以下のように定義されています。
def readline(self):
if self.n == 0:
return ''
self.n = self.n - 1
return 'Hello.\n'
オブジェクトの属性 n
を参照して、それが 0
ならば空文字列を返します。 そうでなければ、属性 n
を 1
減らしてから文字列 'Hello.\n'
を返します。
[10]:
f.readline()
[10]:
'Hello.\n'
[11]:
f.readline()
[11]:
'Hello.\n'
[12]:
f.readline()
[12]:
'Hello.\n'
[13]:
f.readline()
[13]:
''
変数 f
の値であるオブジェクトの属性 n
は、f.n
という式によって参照できます。
[14]:
f.n
[14]:
0
ここでは詳しく説明しませんが、オブジェクトのメソッドも属性の一種です。
継承¶
継承は、既存のクラスをもとにして、変更部分だけを与えることにより、 新たなクラスを定義する機能です。
以下の例では、HelloForEver
をもとにして HelloFile
を定義しています。 一般に、新しく定義されるクラスを子クラス、そのもとになるクラスを親クラスと言います。
[15]:
class HelloFile(HelloForEver):
def __init__(self, n):
self.n = n
def readline(self):
if self.n == 0:
return ''
self.n = self.n - 1
return super().readline()
ここでは、__init__
と readline
を新たに定義しています。
HelloForEver
にも readline
があります。 こちらの readline
は、super().readline()
という式で呼び出すことができます。 super()
は、子クラスのオブジェクトに対して親クラスのメソッドを呼び出すための構文です。 実際に、HelloFile
の readline
の中で、 HelloForEver
の readline
を呼び出しています。
[16]:
f = HelloFile(3)
[17]:
f.readline()
[17]:
'Hello.\n'
特殊メソッド¶
Pythonでは、特殊メソッドと呼ばれるメソッドが多数あります。 これらのメソッドの名前は __
で始まり __
で終わります。
クラス定義の中で特殊メソッドを定義すると、そのクラスのオブジェクトに対して、 その特殊メソッドに対応する機能が付与されます。 初期化メソッド __init__
も特殊メソッドですが、 以下のクラス HelloFileIterator
では、__iter__
と __next__
という特殊メソッドが定義されています。 このクラスは、HelloFile
を継承して定義されています。
__iter__
メソッドは、オブジェクトに対して関数 iter
が適用されたときに呼び出されます。 __iter__
メソッドの値が関数 iter
の値となります。 以下の例では、__iter__
はオブジェクト自身を返しています。 したがって、オブジェクトに iter
が適用されると、オブジェクト自身が返ります。
[18]:
class HelloFileIterator(HelloFile):
def __iter__(self):
return self
def __next__(self):
line = self.readline()
if line == '':
raise StopIteration
return line
[19]:
f = HelloFileIterator(3)
[20]:
print(f is iter(f))
True
上の例で、iter(f)
として関数 iter
を呼び出すと、 f.__iter__()
としてメソッド __iter__
が f
に対して呼び出され、 その結果が iter(f)
の値となります。 したがって、iter(f)
は f
と同じ値を返します。
__next__
メソッドも、オブジェクトに対して関数 next
が適用されたときに呼び出されます。 __next__
メソッドの値が next
の値となります。
上の例では、self.readline()
として、オブジェクト自身に対してメソッド readline
を呼び出しています。 その値が空文字列ならば、
raise StopIteration
という文を実行して、StopIteration
というエラーを投げます。 実は、このエラーは、for文が捕まえて繰り返しを止める効果を持ちます。 なお、raise
は強制的にエラーを発生させる構文です。
[21]:
for line in f:
print(line)
Hello.
Hello.
Hello.
4-2で説明したように、上のfor文では、 まず f
のオブジェクトに対して関数 iter
が適用されます。 すると f
のオブジェクト自身が返ります。 そして、このオブジェクトに対して関数 next
が繰り返し適用されて、 その結果が変数 line
の値となります。 StopIteration
のエラーが検知されると、for文が終了します。
継承による振舞いの改変¶
上で示された、HelloFileIterator
の __next__
メソッドでは、self.readline()
というメソッド呼び出しがありました。 上の例の振舞いから、そのメソッド呼び出しは、HelloFileIterator
には readline
メソッドが定義されていないので、親の HelloFile
を見に行って、そこで定義された readline
メソッドが使われたように見えます。 しかし、それは正確ではありません。
self.readline()
では、その呼び出し場所がどこであるかに関わらず、常にオブジェクト self
の中のメソッドを探索します。 そして、継承があるために、__next__(self)
における self
が、HelloFileIterator
のインスタンスであるとも限りません。 次を見てみましょう。
[22]:
class EmptyFile(HelloFileIterator):
def readline(self):
return ''
f = EmptyFile(3)
next(f)
---------------------------------------------------------------------------
StopIteration Traceback (most recent call last)
Cell In[22], line 6
3 return ''
5 f = EmptyFile(3)
----> 6 next(f)
Cell In[18], line 7, in HelloFileIterator.__next__(self)
5 line = self.readline()
6 if line == '':
----> 7 raise StopIteration
8 return line
StopIteration:
コンストラクタに 3
を与えているので、HelloFileIterator
と同様に next
を3回適用できてもよさそうですが、即座に StopIteration
が生じました。 これは、__next__(self)
における self
が、EmptyFile
のインスタンスであり、self.readline()
が常に ''
を返すからです。
このように、継承は、メソッドの部分的な再定義を通じて、再定義されたメソッドを呼び出しているメソッドの振舞いを、間接的に改変することを可能にします。
練習¶
'Hello.\n'
ではなくて、初期時に指定された文字列を繰り返し返すように、 新たなクラス StringFileIterator
を定義してください。
StringFileIterator
は HelloFileIterator
を継承し、 初期化メソッドには、文字列と回数を指定します。
[23]:
class StringFileIterator(HelloFileIterator):
def __init__(self, s, n):
...
...
上のセルで解答を作成した後、以下のセルを実行し、実行結果が True
になることを確認してください。
[24]:
f = StringFileIterator('abc', 3)
print(list(f) == ['abc','abc','abc'])
---------------------------------------------------------------------------
AttributeError Traceback (most recent call last)
Cell In[24], line 2
1 f = StringFileIterator('abc', 3)
----> 2 print(list(f) == ['abc','abc','abc'])
Cell In[18], line 5, in HelloFileIterator.__next__(self)
4 def __next__(self):
----> 5 line = self.readline()
6 if line == '':
7 raise StopIteration
Cell In[15], line 5, in HelloFile.readline(self)
4 def readline(self):
----> 5 if self.n == 0:
6 return ''
7 self.n = self.n - 1
AttributeError: 'StringFileIterator' object has no attribute 'n'
▲with文への対応¶
ここでは詳しく説明しませんが、さらに特殊メソッドである __enter__
と __exit__
を定義すると、 with文にも対応できます。
[25]:
class HelloFileIterator(HelloFile):
def __enter__(self):
return self
def __exit__(self,exception_type,exception_value,traceback):
pass
def __next__(self):
line = self.readline()
if line == '':
raise StopIteration
return line
def __iter__(self):
return self
[26]:
with HelloFileIterator(3) as f:
for line in f:
print(line)
Hello.
Hello.
Hello.
練習の解答¶
[27]:
class StringFileIterator(HelloFileIterator):
def __init__(self, s, n):
self.s = s
self.n = n
def readline(self):
if self.n == 0:
return ''
self.n = self.n - 1
return self.s
[ ]: